近年の地球の環境変動や物流のグローバル化により感染症パンデミックの危険性は増大し続けている。総合的な感染症対策への国家的戦略性・緊急性が増大する中、今回のCOVID-19によるパンデミックの経験を生かし、平時の感染症研究から有事の医療、研究体制への迅速な移行システムを構築し、安心な純国産ワクチン・治療薬の安定供給体制を構築するためには、九州大学の複数分野の知を融合して生み出される新たな知を活用し、基礎、応用からそのシーズの社会実装に至る感染症研究拠点を構築する必要がある。
このため、新たに、九州大学の4部局(薬学研究院、医学研究院、農学研究院、生体防御医学研究所)が中心となって、「九州大学感染症創薬研究センター」を新設し、我が国独自の知的財産である昆虫工場ワクチン生産システムを活用した純国産ワクチンの社会実装を見据えた、安全で効率的な次世代ワクチンの研究拠点を構築する。
本センターは、本学における感染症創薬研究の司令塔として、以下のことを目指す。
・平時の研究としての感染症研究における九州大学の強みとなる先端研究の密な連携促進、産官学連携による実用化研究の加速、有事の際の緊急医療物資生産ラインの確保、さらには、機関を超えた連携による予防薬、治療薬開発の加速化を進める。
・臨床対応にあたり、既存の病院組織のネットワーク、ARO次世代医療センターの25大学ネットワーク、グローバル感染症センターのネットワークを活用し、有事に即応できる体制を構築し、特定の感染症のパンデミックが想定された際は、初期からの医療検体へのアクセスできる環境を整備する。
・コホート、後遺症、副反応研究を推進し、DXなどを活用した各種政策、研究方針の策定に有用な情報を供給する。
・九州大学の強みを結集し、ワクチンの有効性予測の短期化と高精度化、新規感染実験動物開発、アジュバント開発を行うことにより、ワクチンの製造から機能評価、前臨床試験までを九州大学内で責任を持って完遂する。
関連するこれまでの活動として、2021年7月「九大における感染症研究に関する国等へのアピール検討ワーキングチーム」を立ち上げ、企業等と意見交換会などを20回以上開催、また、福岡県との包括連携協定(2022年4月締結)の連携事項の一つとして、新興感染症が発生した場合に、即時対応可能な治療薬、ワクチンの研究開発体制(コンソーシアム)を構築するための意見交換も行っている。
加えて、九大カイコワクチン、既承認薬や機能性食品成分の新たな薬効、地球環境にやさしい新薬合成法、独創的な疾患診断技術を社会実装するため、関係機関とは感染症創薬研究拠点を構築するため連携してきた。これらの取組の結果、九州地区全体の基礎研究、臨床研究、感染の予防診断治療の学内外の連携体制を「九州感染症研究拠点」として構築しており、本センターは、当該研究拠点の司令塔の役割も果たす。
また、次期段階として、ワクチン開発技術を基軸に優秀な若手教員や大学院生を配置し、九州・沖縄オープンユニバーシティ(KOOU)、医薬基盤研究所、自然科学機構、福岡県ワンヘルス推進室、久留米リサーチパーク関連企業などと産学官連携して、本センターを中心に、関係部局(薬学研究院、医学研究院、農学研究院、生体防御医学研究所など)が持つ知識・ノウハウ・機関間連携を駆使した最適化創薬研究を展開することで、アカデミア創薬を加速させつつ、COVID-19のような新興ウイルス感染症にも迅速に対処できる感染症に特化した次世代創薬人材を育成する。
2023年10月1日~2024年3月31日 薬学研究院 大戸茂弘
2024年4月1日~2025年3月31日 医学研究院 赤司浩一
2025年4月1日~ 農学研究院 日下部宜宏